映画『少女は卒業しない』感想/高校時代にヒエラルキー上位でなかった人ほど観てほしい作品

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朝井リョウさん原作小説の映画化作品、『少女は卒業しない』

『桐島、部活やめるってよ』、『何者』など

邦画好きの間で評判が高い朝井リョウさん原作小説の映画化と言うことで、

一部の邦画ファンは公開前から期待していたであろう映画『少女は卒業しない』。

2023年の2月23日から上映が開始しており、期待を裏切らない作品だったので一人でも多くの人に映画館で観てほしいと思って感想を書きました。

と言うか邦画に抵抗がない人なら予告もこの記事も見ず、前情報一切なしで今すぐ観に行ってほしいですね。

なので公式サイトのリンクも劇中の画像も貼りません。

『ブギーポップは笑わない』、『ダイヤモンドは砕けない』系譜の否定形タイトルはちょっと人によっては食傷気味と言うか興味を惹かれないかも?

でもそんなことを気にして観に行かないのは言い訳ですね!

華々しいとは言えない高校生活を送った人ほど刺さる作品では?

『桐島、部活やめるってよ』はスクールカーストの残酷さをこれでもかとえぐり出すような、

観ていてちょっと辛いものがある映画でした。

一方『少女は卒業しない』ではことさらスクールカーストにフォーカスした作品にはなっていません。

とは言えメインの登場人物は『陽キャ』とまではいかない、今風に言うと『キョロ充』と言うか、決して一軍ではない登場人物が多いです。

その描写が非常にリアルで、一軍ではない彼氏持ち女子ってこう言う感じだったよなー、とか

地味な男子に限ってバンドを組むと激しい音楽を演奏したりするんだよなー、と言うような高校生活あるあるが詰め込まれていて解像度が非常に高い。

映像の撮り方もスマホで撮影したようなアングルが多用され、さらに露出が抑え気味?なのか、

いわゆる『映画らしい』細かい粒子がかかったような画面の質感ではなく、ホームビデオで撮影したような比較的鮮明で飾り気のない映像。

これに日常をそのまま切り取ったような長回しのカットが要所要所で使われることで、作品全体のリアルさと言うか生っぽさを高めています。

この映画の長回しの使い方は本当に素晴らしいんです!!!

登場人物たちを繋ぐある接点

  • 微ネタバレ注意!

この手の高校生を主役に据えた映画は実写・アニメを問わず、

不自然なまでに『異常に世の中を達観できる、人間性に優れた聖人』たちの作品になりがち。

『少女は卒業しない』も年齢の割には大人びた行動・考えのできる高校生たちが多く登場するのですが、

本作ではそれにキチンとしたロジックが設定されていて、

普段はエキセントリックな高校生である『森崎』が発する極めて現実的なセリフにも理由があります。

その事象に対する伏線が巧妙に張りめぐらされており、

相互に影響を及ぼしながら真相が明かされ、終幕へと向かっていく巧みな構成はこれぞ映画!と言うカタルシスに満ちていました。

恋愛映画らしからぬ恋愛映画

  • 微ネタバレ注意!

確かに主要人物それぞれの恋模様が描かれてはいるのですが、直接セリフで気持ちを伝えるような描写はありません。

それでも冒頭の作田詩織を演じる中井友望さん、

終盤の吹奏楽部部長、神田杏子を演じる小宮山莉渚さんの湿度の高い演技はどんなセリフよりも説得力のあるものでした。

最終盤で神田部長の発するあるセリフは日陰者の逆襲、と言った趣で大変スカッとする下り。

個人的には佐藤緋美さん演じる森崎のキャラを含め、神田部長のエピソードが一番良かったですね。

終盤のこの2人のシーンは脳内でV系バンドThe GazettE(ガゼット時代)の大好きな曲『春雪の頃』の歌詞が流れていました。

特に以下の部分。

いつもより 少し長く 君の背中見届けた

見飽きてた帰り道も あともう少しなんだね

君想い… 君に揺れ… また想い届かなくて

数えたらキリのない 不器用に過ぎる青き日々

ずっと ずっと変わらずにずっと このままでもいいから

せめて君よ 忘れないで 記憶の欠片じゃ悲しい…

春雪の花が咲く 満開の別れの日

たくさんの「さよなら」は消えない思い出になる

君想い… 君に揺れ… 君と歩いたこの道

「心から好きでした」言い出せなかったこと

ずっとずっと 変わらないもの なんてないと分かってる

思い出す度 焦がれる胸 アルバム開けばそこに

1枚だけの卒業写真 満開の春雪の下

君と僕は青き日のまま 褪せない笑顔で溢れてる…

ほぼ後半部分の歌詞全部だった。



1枚じゃないけど、「1枚だけの卒業写真」なんてモロにあのシーンを想起させますよね。

役者さんも失礼ながら存在を知らない方ばかりだったのですが、それぞれが高校生らしいフレッシュさがあり、なおかつ自然な演技を披露していました。

単館系映画が好きな人の間では名が知られている役者さん方っぽい?

近年のアニメ映画はアニメの特性を活かした傑作が多いのですが、

こう言う微妙な感情の機微を表現できる役者さんの演技を観ていると「やはり実写には実写の良さがあるな!」と再確認させられます。

『桐島、部活やめるってよ』は神木隆之介くんや松岡茉優さん以外はちょっとアレな演技も見受けられましたが、本作ではその点での心配は無用。

さらに公開時点で若干20歳の歌手みゆなさんの歌うED曲、『夢でも』も静かな盛り上がりを見せる素晴らしい曲で、映画の余韻をさらに深めてくれます。

この曲は映画の試写を観たみゆなさんがスタジオに籠もって1日で作曲を終わらせたとのこと。天才か…。

同じ朝井リョウさん原作映画の『何者』、

あるいはやはり傑作邦画である『ヒメアノ~ル』のような、

一点突破でぶち抜くような超強烈なシーンは『少女は卒業しない』にはありませんが(個人の感想)、

鑑賞後ジワジワ、しみじみと思い起こしてまた観たくなるようなシーンが多々。

この日本らしいエモに満ち、

多感な時期を思い起こさせる傑作映画を母国語で堪能できるのは日本に生まれた人の特権!

ぜひ劇場でウォッチしてください!(ムービーウォッチメン風)

たぶんムービーウォッチメンのガチャで当たったら宇多丸さんは絶賛しそう。

ネタバレ

中川駿監督の上映後トークショーなどで明かされた事実を書いておきます。

Googleにクロールされないように&見づらいようにdeleteタグで囲んでおきますが、

映画鑑賞前の人は観ないでください。

  • 佐藤駿の死因

「このままでいいのにな」と言うセリフから漠然とした将来への不安からの自殺かと思っていましたが、

中川駿監督によると『掃除時間中に窓掃除をしていて転落死』とのこと。

「まなみのモノローグ中で他の生徒が掃除用具を持っていること、駿の手に雑巾が握られていることで示そうと思ったが上手く伝わらなかった」とも仰っしゃられていました。

  • 坂口先生が作田に「相手の言うことに絶対に同意しないでください」と言った理由

中川駿監督によると、「作田詩織は繊細な性格の持ち主で、相手の機嫌を損ねないように常に気を遣ったコミュニケーションをする。

相手からすると気疲れしてしまうのでだんだんと人が離れていく。

そこで坂口先生は作田に「本心からのコミュニケーションを取るように」促したかったが、

かと言ってそのままアドバイスをしても作田は応じないと思い極端な言い方をした。

結果として花坂椎南さん演じる木村沙知と本心でコミュニケーションが取れた。」

なお、沙知は映画オリジナルキャラクターです。

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